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『父と暮せば』…黒木監督を悼む [観道楽の感動・楽]

3年近く前、ある友人の結婚パーティーで井上ひさしさんとご一緒する機会がありました。その時
「今度、僕の『父と暮せば』が映画になるんですよ。宮沢りえさん主演で!」
と、うれしそうに話しておられました。

『父と暮せば』は、
終戦3年後の広島で、父や親しい友人を原爆で失った娘が、新しい幸せを摑もうとしている。(母はすで他界)
が、自分より幸せになるはずだった友人たちを失い、自分だけが幸せになるわけにはいかない、
そんな思いに苛まれ、自らの恋心を打ち消そうとする娘の元に、亡くなった父親の幽霊が現れ、
「恋の応援団長」となって、ユーモアたっぷりに「生きていかなければいけない意義」を伝える。
                                                 ‥‥そんなお話です。

日本は、世界で唯一の被爆国。だから、同じ悲劇を二度と繰り返してはならない、ということを
世界中に訴えていくのが、日本人の使命なんだ。

井上ひさしさんが、ある講演会でそのように話してらっしゃいました。

原爆投下当時の広島の人口が、10万余人の外国人を含めて、約43万人。
で、8月6日その日のうちに亡くなられた方が約9万人、その年の暮れまでに亡くなられた方が6~7万人。
そんな中で、生き残った方たちによって書かれた手記が約5万点残っていて、
井上さんは、それらをできる限り読まれたとのことです。

「あの時の広島では、死ぬのが自然で生き延びるのが不自然だった」
「生き延びてしまって、亡くなった方に申し訳ない」
「生き延びてしまった者に、幸せになる権利なんかない」

多くの方たちが、そんな思いを綴られているのだそうです。


話は横道にそれますが、一年前のJR福知山線の事故で、一命を取りとめた乗客の一人が
自らも大怪我を負いながら「一緒に乗っていた友達が亡くなったのに、自分だけ助かって申し訳ない」
と涙ながらに語っていたのが印象に残っています。
生と死の境目を味わった人は、同じ気持ちになるものなんですね‥‥。
でも、二度と同じ過ちが起きないように、心と体の傷をこらえて事故当時の状況を語ってくださったのでしょう。
井上ひさしさんもその報道をご覧になっていたそうで、後に別な講演会で話しておられました。


生き残った人たちの思い、亡くなられた方たちの「自分の分まで生きて欲しい」という気持ちを描いた
『父と暮せば』を
宮沢りえさん、原田芳雄さん父娘で、映画化したのが、12日に急逝された黒木和雄監督です。

失礼ながら、黒木監督のお名前を知ったのは、この『父と暮せば』映画化の時が初めてでした。
父と娘の二人芝居が映像になると、どんなふうになるんだろう…
とても、興味がありました。

映画は、井上さんが書かれた戯曲のセリフを99%そのままで作られています。
1ヶ所、明らかに異なるのは、
「おまえは人がたまげてのけぞるような美人じゃない」というセリフが
「‥‥色気はない」
に変わっていた、ということです。娘役がりえさんですからね‥‥

宮沢りえさんは、この映画の仕事が決まると、勉強のためにすぐに広島に飛んだ、と聞きました。
「監督の熱さ、優しさ、強さがいっぱい詰まった『父と暮せば』は、私にとって大きな大きな宝物です」
…と語ってらっしゃいます。(読売新聞 4月15日(土)夕刊「黒木和雄監督を悼む」にて)

戯曲をそのまま映画化した、という点に対する賛否は、いろいろあったようですし、
舞台『父と暮せば』のファンとしては、ツッコミどころがないわけでもありません。

でも、りえさんは「幸せになりたい」でも「幸せになっては申し訳ない」という揺れる女心を、
見事に熱演されてました。もう、美人だろうと不器量だろうと、どうでもいいじゃない、って感じです。
原田芳雄さんも、お茶目な父親で、暗くなりがちな話をにユーモアたっぷりに演じられました。

「お芝居は敷居が高いけど(ホントはそんなことないんですよ、この芝居は)映画ならば」
という方たちにも、
とても大事なメッセージが伝わったことと思います。

     改めて、黒木和雄監督のご冥福をお祈りいたします。

今年は、被爆から61年目。夏になると、またどこかで上映されるかもしれません。
DVDも発売になっています。

父と暮せば 通常版

父と暮せば 通常版

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • 発売日: 2005/06/24
  • メディア: DVD
見逃していた…という方、機会がありましたら、ぜひ!


ついでに…といっては何ですが
この『父と暮せば』は、映画化と同じ時期に【ロジャー・パルバース氏】によって英訳され、
日英対訳本も出版されました。
英語は学校で習っただけの柴壱ですが、パラパラッと見たところわりと読み易い単語ばかりで
書かれているかな、という感じです。
興味のある方は、【こちら】をどうぞ。



この記事は柴犬陸さんの記事【黒木和雄監督の死】にトラックバックします。

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コメント 16

元山陽ちとせ

井上ひさしさんが出席された結婚パーティって、、すごいお友達ですね~。
恥ずかしながら黒木監督のことも父と暮せばのことも知らなかったです。
広島県人としては一度見ておかないといけないですね。
黒木監督のご冥福をお祈りいたします。
by 元山陽ちとせ (2006-04-16 16:52) 

柴犬陸

作者自身の口から、映画化のお話を聞かれるとは、柴壱さんの交友関係が羨ましい限りです。
柴壱さんの記事を読んで、黒木監督の「父と暮らせば」について、また思いを新たにしました。声高でない、反戦映画をこれからも観てみたかったです。
TBありがとうございました。
私もTBさせていただきました。
by 柴犬陸 (2006-04-16 17:29) 

Cocona

死ぬのが自然で生き残るのが心苦しい、、、福知山線の事故でも印象的な言葉でした。どうしようもない悲惨な状況に遭遇すると自然の気持ちとして人はこう感じるんですね。人間の心の奥深さを知らせれます。
先に旅立つ人たちは、きっと自分の分まで生きて欲しいと願うのでしょう。生かされている私たち、一生懸命生きて行かないと申し訳ない、そんな気持ちになりました。
by Cocona (2006-04-16 18:40) 

私は、この映画は知らなかったのですが
原爆や人の死などの話を耳にした時
全く関係ないタイトルですが 蛍の墓(宮崎駿さん)を思い出します
これから生きて行く私達に、何が出来るのかとか 本当にこれで良いのかとか
考えてしまいます。どんな時でも人の死は、生き残った人達に
強くたくましく生き抜いてくれと 言い残しているように感じます
最近心が死んでる人が多いので 戦争関連や親と子の愛情的なもの
見て欲しいですね。私もなんですが
by (2006-04-16 21:30) 

みゆき

私もこの映画は知らなかったです。
でも昨年観たドラマで原爆が落とされるまでの広島の人達の生活が舞台になっているものがありました。
原爆が落とされるシーンはほんとにこんな事があったのかと思うほど恐くて、
もう2度とあんなことはおきて欲しくないと思いました。
by みゆき (2006-04-18 11:06) 

柴壱

♪元山陽ちとせ様♪
nice! ありがとうありました~☆ (←一応広島弁のつもり)
広島でも、原爆を知っている世代はどんどん少なくなっていますよね。
原爆投下という事実さえ知らない高校生がいたのは、ビックリ!
こういう映画は、若い世代に伝えていくには、いい作品です。
全編広島弁で語られています。ご家族で、ぜひ!
by 柴壱 (2006-04-18 12:55) 

柴壱

♪柴犬陸さま♪
nice! そしてトラックバックありがとうありました~☆
黒木監督の『父暮』は、もの静かできれいな映像でしたよね。
戦争をテーマにした映画は、私もつい敬遠してしまうのですが、
黒木監督の戦争レクイエム三部作(新作を入れて四部作?)は、
機会があれば見てみたいです。
by 柴壱 (2006-04-18 13:05) 

柴壱

♪Coconaさま♪
原爆も福知山線の事故もどちらも、人によってもたらされた災いなんですよね。
二度と同じ悲劇が起きてはならない、ということは、生かされている私たちが
いろんな形で伝えていかなければいけないですね。
nice! ありがとうありました~☆
by 柴壱 (2006-04-18 13:19) 

柴壱

♪tanukiさま♪
戦争の映画やドラマは、ついつい敬遠しがちでて、「火垂るの墓」は
アニメも、最近やったドラマ化されたのも見ていないんですよ、実は…。
よくないですよね…と反省。
『父と暮せば』は、8割以上がユーモラスな会話でできていますので、
あまり、暗くならずに見られる作品です。
nice! ありがとうありました~☆
by 柴壱 (2006-04-18 13:33) 

柴壱

♪みゆき様♪
去年は、終戦、被爆60年ということで、戦争や原爆を扱ったドラマが
たくさん放映されましたね。
あれが、ホントに日本で起きたことなのか、
そして、今でも世界のどこかで行われようとしているのか
そう考えると、苦しくなりますね。
映画版『父と暮せば』は、ほんの少しだけCGを使っていますが、
ほとんどがりえさん演じる娘の言葉だけで、「ピカ」の悲惨さを表現しています。
でも、その場面以外は、ユーモラスな父娘の会話で進む作品です。
機会がありましたら、ぜひ。
nice! ありがとうありました~☆
by 柴壱 (2006-04-18 13:45) 

はじめまして、こんにちわ!
初niceいただきまして、ありがとうございました。
まだまだ始めたばかりで、ショボイブログではありますが、
よろしくお願い致します~。
しかも映画とはまったく関係ないコメントで、
申し訳ありません・・・。
by (2006-04-18 20:31) 

井上ひさしさん直々お話を聞かれたとはすごい!最近なかなか邦画を観ないのですが、機会があれば是非観たいですね。戦争はほんとに命の無駄遣いだと思います
by (2006-04-19 22:22) 

柴壱

♪purupuruさま♪
ようこそ~!です。ご訪問、そしてnice! ありがとうございます~☆
ソネブロのリニューアルトップページで「柴だもん」の文字を見つけて、
お邪魔してみました。
ちょうど、出かける直前だったので「nice!押し逃げ」になってしまいましたが、
また、お邪魔させていただきますね♪
by 柴壱 (2006-04-20 10:51) 

柴壱

♪kissちゃま♪
nice! ありがとう~~~~~☆
by 柴壱 (2006-04-20 10:52) 

柴壱

♪fumilinさま♪
nice! ありがとう~~~~~☆
by 柴壱 (2006-04-20 10:52) 

柴壱

♪fukumusumeさま♪
nice! ありがとうございます~☆
「戦争は命の無駄遣い」、ホントにその通りですね。
『父と暮せば』は岩波ホールの単館上映だったので、東京以外では馴染みが
薄かったかもしれないですね。
自治体や実行委員会形式の自主上映のような形で、昨夏もあちこちで上映されて
いました。今夏、もし、機会がありましたなら、ぜひ。
by 柴壱 (2006-04-20 10:59) 

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